ガットゥーゾの眼の病気

今日のニュースで「ガットゥーゾ 視神経の病気から回復して試合に復帰」と書いてあり、ガットゥーゾが目の病気をしてたことを初めて知った。 しかしなんてカッコいい眼帯姿なんだ~!

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120104-00000020-ism-socc

彼の症状は

http://jp.uefa.com/uefachampionsleague/news/newsid=1705169.html

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ラツィオ戦でプレーした20分間は悪夢だった。酔っているように感じたよ。ズラタン・イブラヒモビッチが4人に見えたからね。残念ながら、僕はいつもプレーを続けろと言う声に耳を傾けてしまう。ネスタとぶつかったことがプレーを止めるいい理由になってよかったよ

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ということなので、専門的には「複視」という症状だ。これは基本的に眼球そのものは問題ないので片眼ずつで見たら視力障害はない。ただし右眼と左眼が同じ方向を向いてくれないので、物が二重に見える病気である。ちなみに眼球は二つしか無いので、二つに見えることはあっても四つに見えることはないはずだ(^^;)

上記の記事に寄れば「第VI脳神経麻痺」と書いてある。これは「外転神経マヒ」と呼ばれる病気で、それほど珍しくはない病気だ。

眼球には上下左右に1本ずつ+斜め上下に1本ずつ、合計6本の筋肉が周囲に付いていてそれぞれが微妙に伸び縮みして眼球を細かく動かしている。

このうち1本でも動きが悪くなれば、もう片方の健康な目と同じ動きが出来なくなり左右でずれが生じてしまうわけだ。外転神経マヒというのは、上記の6本の筋肉のうち眼球を外側へ向ける筋肉(外直筋)へ命令が伝わらなくなる病気である。彼の写真を見ると左眼に眼帯をしてるので、左眼を外向きにしようとしたら(すなわち左を見た場合)物が二重に見えたはずだ。逆に右を向く場合には健康な筋肉だけで動かせるので正常に見えると思われる。

程度にもよるが、外向きの筋肉が弱ったおかげで相対的に内向きの筋肉が強く働くことになる。その結果まっすぐ正面を向いても、眼球が内向きになり物が二重に見えて歩きにくくなることが多い。この病気の原因はいろいろあるが、私の経験上で最も多いのは「糖尿病」もしくは「原因不明」だ。彼もいろいろ検査して問題なかったとのことなので「原因不明」だろう(^^;)

治療はどうするか?特に原因が見当たらなければ飲み薬で様子を見る「経過観察」がほとんどである。私は患者さんには「半年間は、ほっといても治る見込みがあります」と言っている。治る/後遺症が残る、の比率は3:1といったところかな・・・ なのでよほどのことがない限り早期に手術することはない。

たとえば発症後1ヶ月半ほどした時点での記事。 http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/eusoccer/1112/headlines/20111025-00000004-spnavi-socc.html

「斜視(しゃし)矯正手術を受けるため、約6カ月の離脱をすることを発表した。」と前半に書いてあるけれど、彼のコメントには「4カ月ほど安静にした後で手術を受けることになる」と手術についてはまだまだ先のニュアンスだ。

そしてその会見から1ヶ月もしないうちに

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111117-00000003-spnavi-socc

「左目の手術に踏み切ったガットゥーゾだが、同クラブによると、予想以上の早さで回復を見せていることから、専門医による練習許可が下りたとのことだ。」と書いてある。本当はもっと待ってから手術しても良かったのかなとも思うが、プロのアスリートということで別の判断が働いたのだろう・・・

ところで外転神経マヒで手術をする場合、これはマヒを取り除くための手術ではない。脳からの命令が筋肉に伝わらない状態を手術で治すことは不可能である。ではなんのため?おそらくマヒの程度がひどくて、外向きで二重に見えるだけではなく正面でも二重に見えるくらい程度が重症だったのであろう。こうなるとサッカーはおろか日常生活にも影響があるので、手術によって少なくとも正面だけでも一つに見えるように眼球の向きを調整した(斜視手術)と考えられる。手術によって正面を見るときには症状が無くなるが、外向きに目が動くようになったわけではないのでやはり複視の症状が残るのは確実だ。

広範囲を見渡すことが必要なサッカー選手にはかなり致命的だと思われるが、顔の向きを工夫することによりプレーすることが可能になったのだろう。彼の左サイドから近寄ってくる選手やボールを見るのはかなりつらいはずだ。がんばれガットゥーゾ!

おまけ :

いろんな記事で多くの間違いがあったので老婆心ながら(^^;)

・ 「外転神経と呼ばれる脳神経の麻痺(まひ)により視力障害に陥り」 →外転神経マヒで視力が低下することは絶対ない。

・「視神経に問題を抱えて長期離脱」 →「視神経」というのは第II脳神経で外転神経とはまったく別物である。視神経がやられた場合には視力が低下するが複視を来すことはない。